ランチ

周りに適当な店もない閑散とした場所で働いているので、仕事のある日は、お仕着せの昼食をとる。毎日献立が替わるのがありがたい。値も格安だから、味に文句はつけられない。ただ、仕事場から外に出ないので、気分転換にはならない。顔見知りと面つき合わせて食べる食事というのを好む人もいるだろうが、せっかくの休憩時間くらい誰も知らないところで独りでくつろぎたいと思う。

休日は、家で昼食をとるが、共働きの家庭では妻も休みの日くらい、少しは家事を休みたいだろう。朝夕はともかく、休日の昼食の用意というのはリラックスした気分を中断させてしまう。料理が得意な方なら、「男子厨房に入る」を実践して、株を上げるところだろうが、生憎料理の腕はからっきしである。

そんなわけで、忙しかった仕事を終えての休日には、気分転換も兼ねて外で食事をとることになる。ところが、これがまた難しい。出不精で、あまり外に出かけないから、適当な店を知らない。たまに思い出して昔行った店を訊ねると、閉店していることなど、たびたびだ。頼りになるのは、妻の情報である。総じて女の人の方が、こういうことには詳しい。稀に男の中にも詳しい輩がいるが、軽々しく感じられてならない。偏見だろうが。

今日行ったのは、新装開店したイタリア料理店。ところが、案の定広い駐車場に車が溢れ、店の前にも席を待つ人が二、三組。店をのぞくと、流行りのランチ・ヴァイキングらしい。どうして、こうもヴァイキング形式がもて囃されるのか訳が分からない。自分でサーブするくらいなら、家で食べる。別の店に行くことにした。

イタリアンと考えていたから、急に蕎麦には替えられない。近くに、子どもが小さい頃よく行った店があるのを思い出した。油で揚げた茄子をふんだんに使ったメランというスパゲティーが美味しかったのを覚えている。店はたしかにあった。しかし、午後一時という時間なのに車が一台も停まっていない。おそるおそるドアを開けると、見覚えのある顔が「いらっしゃいませ」と言った。前はいつ来ても車を停める場所に困ったくらいだが、近くにできたイタリア料理のチェーン店のあおりを食っているのだろう。

お気に入りのメランは、シェフが替わっていないことを知らせるかのように、手書きの文字もそのままメニューにあった。妻は、ペスカトーレを注文した後、
「ここは遅かったわよね。」
と、思いだしたように呟いた。そうだった。看板メニューを頼んでいる割に、できるまで結構時間がかかるのだ。子どもは、いつもマンガを読むのを楽しみにしていた。

メランには茄子が一個ではきかないほど、ペスカトーレの浅蜊は皿からはみ出そうなほど山盛りで出てきた。滅多に食べないミートソースは、今となっては少し甘味が強いが、茄子は記憶通りの美味しさで、その量とともに堪能した。妻も、「貝は、見かけのために五、六個くらい殻付きにして、あとは剥き身にしてほしいわ」などと言いながらも、ほぼ完食した。

あとから、若い女の子が一組入ってきたが、客はそれきりだった。ヴァイキング用の皿を持って満席の客がうろつく店で食べるのと比べれば、落ち着いた食事ができてこちらの気分は上々だが、店の方は、大丈夫かと少し心配になった。しかし、平日のランチタイムには珈琲の値が安くなるという但し書きがメニューにあった。奥まってはいるが、近くには官庁や会社の多い界隈である。きっと、平日は混むのだろうといい方に想像することにした。妻は、次に来たときには昼食時のメニューにはないドリアをねらっているらしい。それまで、店が続いてくれることを祈るとしよう。

2004-09-26 19:00:18 | Permalink | コメント(2) | Trackback(0)





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