ムッシュ・カステラの恋
フランス人といえば、洒落た科白を囁きながら、男と女が恋愛ゲームを楽しんでいるように思ってしまうのだが、こんな男もいる、という見本がムッシュ・カステラ。中規模工場の社長で、経営者としてはそれなりに有能なのだが、仕事一筋でやってきたため、芸術等にとんとうとく、上流階級にはコンプレックスを感じている。そんな中年男が、仕事のために雇った英語教師に恋をしてしまう。
相手は売れないながらも舞台女優。無知で下品な工場経営者には洟も引っかけない。役者仲間のパーティーに割り込んだのはいいが、下品なジョークを連発したり、生半可な演劇論をぶったりするものだから、無知をいいことにからかいの対象にされてしまう。さすがにいたたまれなくなった女優に「あなたはからかわれているのよ」と諭される始末。
映画はカステラ氏を中心に据えながら、彼に関係のある男と女のそれぞれの事情を追った一種の群像劇になっている。カステラ氏は恋愛中も元刑事のボディ・ガードを傍に置いている。カステラ氏のボディ・ガードとカフェで働く女は交際中だが、以前はカステラ氏の運転手とも寝たことがあるらしい。カステラ夫人は、義妹の部屋の模様替えを頼まれているがお互いの趣味が合わないのでいらついている。
人間長く生きていると、自分の殻のようなものができて、そこから出られなくなるものだ。ボディ・ガードは恋愛に消極的だし、ウェイトレスは金のためなら麻薬も扱って恥じない。運転手は相手の気持ちが離れていることを知りながら認めようとしない。夫人は自分の趣味を疑わない。
それが、相手が嫌いだというなら髭も剃る。英語で詩も書けば、個展で絵を買ったりもする、という一途なカステラ氏に影響され、少しずつ、周囲に変化が現れてくる。ボディ・ガードはウェイトレスとの恋に本気になり、女は麻薬のバイトに疑問を持つようになる。最後には、女優さえ、初日の舞台でカステラ氏の姿を探すという具合。まるで初めて恋をするような中年男の初々しさが眩しすぎ。
ウェイトレス役のアニエス・ジャウィが監督、カステラ氏を演じるジャン=ピエール・バクリが脚本。舞台経験豊かな二人はプライヴェートでもコンビを組んでいるらしい。映画的というより舞台を見ているような味わい。ハリウッド的な派手さは皆無だが、エスプリ溢れる人間模様がなんとも愛おしい。フランス映画の底力を感じさせる一作。
2005-06-17 20:32:57 | Permalink | コメント(2) | Trackback(0)
墓場なき野郎ども
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ジョゼ・ジョバンニは後に自分でも監督するようになるが、もともと暗黒街出身という経歴を持つ人なだけに、裏街道を歩く人たちの描き方はリアルである。若い頃のベルモンドが実にかっこよくて、60年代のヒーローはこの人だったよなあと、懐かしく思い出した。
モノクロで描かれるパリの街が、いかにもパリらしく、走っている車もフランスらしくシークだ。話自体は、妻を殺された男の復讐譚だが、ハリウッド映画なら復讐が果たされてスカッとするように描くところを、ジョゼ・ジョバンニは復讐を終えた男がその虚しさに気づくという話にしてしまう。これが本当だろうな、とは思うものの救いがない。
背中のあたりに孤独が滲む中年のギャングをリノ・ヴァンチュラが抑制の効いた演技で好演している。一抹の救いは、ベルモンドとその恋人の恋愛が、刑期を終えた後も続くような予感をにおわせて終わるところ。題名は、もっとなんとかならなかったのだろうか。今のようになんでも片仮名というのも閉口だが。
2005-06-14 17:42:11 | Permalink | コメント(2) | Trackback(0)

