トロイ


映画館で見ようと思っているうちに終わってしまって、見のがした作品だ。こういう映画こそ大きなスクリーンで楽しむべきだろう。映画を見る前に、『イーリアス』、『アエネイアス』その他の関連本まで読んでおきながら、ついに見に行かなかったのは、原作とのちがいが予想されたからだ。

果たして、いちばんのちがいは神々が登場しないことである。もともと、神々が人間が増えすぎたから少し減らそうと考え、からかい半分で干渉した結果起きたのがトロイ戦争である。それを英雄同士の人間ドラマに仕立て上げるには、神は余計物であったにちがいない。神官や巫女の口から言及されはするが、神々の影は薄い。

その結果、男と女、父と子、友情という普遍的な主題を核に物語は構成されることになる。ローマ建国の礎となったトロイの物語だ。神と人とが同じ地平で行き交う不思議な世界である。人間の英雄や美女は、その強さや美しさが神と比べられ、時には神と競ったりもする。神の方もよくしたもので、贔屓の英雄には加護を与え、敵の足は引っ張るなど、したい放題である。そのよく言えばあっけらかんとした古代世界の風通しの良さのようなものが見られなかったのは、残念だった。

人物造型で核になっていたのはエリック・バナ扮するトロイの王子ヘクトールだろう。困り者の弟パリスに寄せる兄の思いと指導者としての思いの中でディレンマに襲われる高潔な人格がよく出ていた。この人物が秀でているからこそ、父王の悲しみ、好敵手であるアキレスの敵愾心が燃え上がるのであるし、殺したあとの喪失感が見る者の胸を打つのだ。二人の戦いの場面の動と父プリアモスがヘクトールの遺体を引き取りにアキレスのもとを訪れるシーンの静が、対比的に描かれ、感動的な場面になっている。

年老いてなお美しいジュリー・クリスティーや、名優ピーター・オトゥールの雄姿を目にすることができたのはうれしい限りである。ただ、絶世の美女の代名詞であるトロイのヘレン、ヘクトールの妻アンドロマケを演じた二人の女優については疑問が残った。かつて見た映画では『黄金の七人』のロッサナ・ポデスタがトロイのヘレンを演じていたが、堂々たる体躯、気品のある容貌という点で非の打ち所がなかった。神が嫉妬心を抱くほどの美貌というには、今回のヘレンは線が細く神経質的で現代的すぎるのではないか。モデルのような美しさは神話時代の美の基準とちがいすぎて、違和感があるのだ。

CGを駆使した群集シーンはスクリーンで見なければその迫力は半減する。爆発シーンも現代の火薬があるわけではないだろうに派手すぎるし、戦闘シーンの殺陣もカンフーアクションもどきのスピードがかえって迫力を殺いでいるように思った。重い盾や剣を振り回すのだ。よろよろ、よれよれでいいではないか。まあ、それでは今の観客が不満を漏らすのかも知れないが。

廃船の部品を使って作られたような木馬はリアルで、今回のセットを含めた作り物の中で最も満足させられた。良い意味でも悪い意味でも一大スペクタクル史劇というべきだろう。

2005-08-27 12:40:00 | Permalink | コメント(3) | Trackback(0)

シービスケット



人生で一度は挫折を経験した男たちが、一頭の競走馬によって再び生きる力を与えられる物語である。

20世紀初頭、T型フォードの誕生は流れ作業による大量生産の時代を開き、それまでの労働の質を大幅に変えようとしていた。それまで産業を担っていた専門技術を持った職人は無用の長物とされ、安価な労働力に切り替えられていった。一方、ニューヨーク証券取引所にはじまる株の大暴落は大量の失業者を生み、家を失った人々が大量に街に溢れ出した。そんな時代である。

何よりも馬が好きで、その扱いにも長けていた牧童のトムは、鉄条網の普及によりカウボーイとしての仕事がなくなりつつあった。

株の暴落で家を失った両親は、馬に関する才能を見抜いた馬主に少年のレッドを預け何処かへ去る。草競馬の騎手となったレッドだったが、親に捨てられた心の傷は、彼を虚言癖のある怒りっぽい若者にしていた。

持ち前の才能と野心で、西部で自動車産業を興して成功したハワードは、最愛の息子を自動車事故で失い、妻にまで去られてしまう。

そんな男たちが、ハワードの再婚相手を通じて巡り会うことになる。事故以来車庫を封印していたハワードは妻の影響もあって、いい馬を探していた。そんな時、骨折して殺されそうになった馬を治療しながら森で暮らすトムに出会い調教師として雇うことになる。

競走馬は速ければいいというものではないというのがトムの持論。朝霧の立ちこめるパドックでトムは一頭の馬と目が合う。その馬には心があった。馬の名はシービスケット。名馬の血をひきながら、大食らいで怠け者の性格、小柄な体格が災いして、今では相手の馬に勝ちを譲って自信をつけさせる調整馬に甘んじていた。そのストレスが、気を荒くし、安値で売られるところまで来ていた。

買ったはいいが、暴れ馬で乗り手がいない。騎手を探すトムの眼に大勢を相手に立ち回りをしていたレッドの姿が馬の姿と重なる。名コンビは西部の競馬を総なめにするが、東部には名馬中の名馬がいた。苦労の挙げ句やっと決まったマッチレースを目前にして、レッドが足を骨折してしまう。

東部の名門対西部の成り上がり、成功者と挫折者、名馬と悍馬、富める者と貧しき者という二項対立のドラマ設定はあざとさを感じさせるくらいの構成だし、騎手仲間の友情をはじめとして登場人物のすべてが善人というのは、物語の底を浅いものにしてしまうように思うが、何とこれが実話をもとにした映画だというから驚く。

「けがをしたからといって命まで奪うことはない」という、馬に向けてのトムの言葉が、一度失敗をしたからといって人生を捨ててしまわなくていい、というメッセージとなって全編に繰り返し流される。挫折を経験し、くじけそうになっている者には何より心にしみる言葉である。

実況アナを演じるウィリアム・H・メイシーの怪演はおまけとしても、体を絞り込んで、ジョッキーらしく見えるトビー・マグワイヤ、ジェフ・ブリッジス、クリス・クーパーら助演陣の抑えた演技が、ともすれば大上段な感動物語になりそうな話をいい味に仕立てている。時代を感じさせる衣裳や背景、競馬のシーンと見せ場も多い。たまには素直に感動に身を任せたいと思う向きにはお薦めの佳編である。

2005-08-23 23:39:09 | Permalink | コメント(0) | Trackback(0)

神戸

ネットでルート検索を試みた。伊勢高速道を関I.Cで下り名阪国道経由で松原JCTから吹田まで、そこから西宮までは名神高速神戸線。西宮から神戸高速3号線で摩耶ランプを出て、一般道を五分で兵庫県立美術館に着く。約3時間30分の道のりである。吹田まで北上すると、距離としては長くなるが、大阪市内を通る阪神高速を使っても何ほども時間は変わらない。高速料金が割高になるが、分かりやすい道を行くことにした。

天気予報は曇り。直射日光こそないが湿度、温度とも高い。トップは閉めたままだ。神戸まで往復7時間の日帰りである。無理はしないに限る。久しぶりのロングドライブ、オールデイズのヒット曲を集めたCDを持って乗り込んだ。服は麻の上下、靴はコンビで決めたいところだが、運転を考えて慣れたふだん履きにした。

往きは妻の運転。トップを閉めると音楽がよく聞こえる。ビーチ・ボーイズのサーフィンUSA。ドライブにはもってこいの軽快な曲だ。針テラスまでは妻もよく知っている道、安心して助手席で鼻歌を歌っていればいい。大型トラックの交通量の多い名阪国道は嫌いと妻が言うので関で運転を交代した。ナビゲーター役は苦手なので、どっちかと言えばドライバーの方がいい。

しかし、せっかく選んだ吹田からの名神高速道は渋滞。阪神高速も同じく渋滞では、何のための高速道路か分からない。いつも使っている人なら普通なんだろうが、たまに来た旅行者には理解できない。きっと外国人と同じなんだろうな。大型トラックも走っているのだから、下を走るよりは速いということなのだろうか。

摩耶ランプで下りたのはいいが、一般道の方が広い。行きたいのは右の方だが、片道三車線の道路にようやく入って、すぐに右に曲がれと言われてもそれは無理というもの。どうにか直進の車線に入って前に進んだ。神戸は海を埋め立てて広がっていった街である。海の方に向かう道は行き止まりだ。Uターンして来た道を逆にたどって市街地を走る路線に乗った。そのまま走ると、美術館が左手に見えてきた。

県立美術館でギュスターヴ・モロー展の開催中。駐車場に車を停め、まずは腹ごしらえ。洒落たレストランで仏蘭西料理を食べる。妻は鱸のオレンジソース、私は神戸牛のステーキ、マスタードソース。モロー展については別に書いたので、ここには書かない。ミュージアム・ショップでヒエロニムス・ボッシュの絵から起こしたフィギュアがあまりよくできていたので、少し高価だが買い求めた。『悦楽の園』にある卵の殻を体にした帽子をかぶった男の像だ。

地図によるとすぐ近くにある神戸市立博物館では、「ベルリンの至宝展」を開催中。トルコ旅行の際、発掘した美術品はみんなベルリンにあると聞いた。実際どんなものがあるのかのぞいてみてやろうと思ったのだった。行ってみて驚いた。ギリシア・ローマの時代、エジプト美術と何でも揃っている。ペルガモン神殿の正面部分の大部が持ち去られているのには驚くのを通り越して呆れた。メリナ・メルクーリが、ギリシアの文化相の時、大英博物館所蔵のエルギン・マーブルの返還を強く求めたというが、その気持ちがよく分かる。

渋滞に懲りて、帰りは高架下の道をとったのだが、信号で止まるたびに阪神高速湾岸線に誘う標識が目にとまる。遂に尼崎港で辛抱がたまらず右折してしまった。湾岸道は渋滞知らずで快適だったが、調子に乗って分かれ道で大阪市内に入りそびれた。あわててナビゲーターの妻をせっつく。このあたりまるでラリーの世界。高石というところで堺泉北有料道路に乗れば、帰れるというルートを発見してやっと一息。

渋滞知らずで分岐点に来たのだったが、美原JCTでどちらに行くのかまた迷った。何故か、標識には行きたい地名が出ていないものだ。ままよ、と吹田の方を選んだ。結果的にはそれが正解だったのだが、よく知っている地名が出てくるまでは心配だった。ナビのない車でロング・ドライブするのは考えものだ、と思ったことであった。

2005-08-01 19:46:16 | Permalink | コメント(2) | Trackback(0)





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